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旭川地方裁判所 平成7年(ワ)158号 判決

一〇号、五六号原告兼一一六号、一五八号事件被参加人

佐藤忠昭

右訴訟代理人弁護士

佐藤允

一〇号事件被告兼一一六号、一五八号事件被参加人

日動火災海上保険株式会社

右代表取締役

江頭郁生

五六号事件被告兼一一六号事件被参加人

住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

小野田隆

被告両名訴訟代理人弁護士

小寺正史

原洋司

樋川恒一

一一六号事件参加人

株式会社タケダ

右代表者代表取締役

武田紀一

一五八号事件参加人

紋別信用金庫

右代表者理事

工藤剛一

右訴訟代理人支配人

久慈則夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  参加人株式会社タケダ及び参加人紋別信用金庫の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とし、各参加による訴訟費用は各参加人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告日動火災海上保険株式会社は、原告に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する平成六年一月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告住友海上火災保険株式会社は、原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  原告の請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  参加人株式会社タケダの請求の趣旨

1  参加人と原告との間において、原告の被告日動火災海上保険株式会社に対する請求に係る長期総合保険(家財)契約に基づく保険金請求権金五〇〇万円について参加人が質権を有することを確認する。

2  被告日動火災海上保険株式会社は、参加人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成六年一月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  参加人と原告との間において、原告の被告住友海上火災保険株式会社に対する請求に係る一五〇〇万円の保険金請求権について参加人が質権を有することを確認する。

4  被告住友海上火災保険株式会社は、参加人に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  参加による訴訟費用は被参加人らの負担とする。

四  参加人株式会社タケダの請求の趣旨に対する被参加人らの答弁

1  参加人の請求をいずれも棄却する。

2  参加による訴訟費用は参加人の負担とする。

五  参加人紋別信用金庫の請求の趣旨

1  参加人と原告との間において、原告の被告日動火災海上保険株式会社に対する請求に係る長期住宅火災保険契約に基づく保険金請求権金八〇〇万円のうち金七〇〇万円について参加人が質権を有することを確認する。

2  被告日動火災海上保険株式会社は、参加人に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成六年一月一三百から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  参加による訴訟費用は被参加人らの負担とする。

六  参加人紋別信用金庫の請求の趣旨に対する被参加人らの答弁

1  参加人の請求をいずれも棄却する。

2  参加による訴訟費用は参加人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  保険契約

原告は、被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告日動火災」という。)との間で次の(一)及び(二)の保険契約を、被告住友海上火災保険株式会社(以下「被告住友海上」という。)との間で次の(三)及び(四)の保険契約をそれぞれ締結した。

(一) 住宅火災保険(証券番号三二五〇八五六五)

(1)保険者 被告日動火災

(2)保険契約者 原告

(3)契約年月日 昭和五三年一月一七日

(4)保険の目的物 別紙物件目録記載の建物

(5)保険期間 昭和五三年一月一七日から平成一〇年一月一七日までの二〇年間

(6)保険金 八〇〇万円

(7)保険料 原告は、契約と同時に二〇年間分の保険料一九万六〇〇〇円を一括払いした。

(二) 長期総合保険(証券番号九七四一三五五九)

(1)保険者 被告日動火災

(2)保険契約者 原告

(3)契約年月日 平成二年三月二日 (4)保険の目的物 別紙物件目録記載の建物内の家財

(5)保険期間 平成二年三月二日から平成七年三月二日まで五年間

(6)保険金 五〇〇万円

(7)保険料 原告は、一か月当たりの保険料九八〇〇円を平成五年五月まで毎月二六日限り支払い続けた。

(三) 住宅総合火災保険(証券番号四六一四四七〇六九五)

(1)保険者 被告住友海上

(2)保険契約者 原告

(3)契約年月日 平成五年六月一一日

(4)保険の目的物 別紙物件目録記載の建物

(5)保険期間 平成五年六月一一日から平成六年六月一一日まで一年間

(6)保険金 五〇〇万円

(7)保険料 原告は、一か月当たりの保険料一一七〇円を平成五年六月分まで契約時に支払った。

(四) 住宅総合保険(証券番号四六一四四七〇六九六)

(1)保険者 被告住友海上

(2)保険契約者 原告

(3)契約年月日 平成五年六月一一日

(4)保険の目的物 別紙物件目録記載の建物内の家財

(5)保険期間 平成五年六月一一日から平成六年六月一一日まで一年間

(6)保険金 一〇〇〇万円

(7)保険料 原告は、一か月当たりの保険料二六一〇円を平成五年六月分まで契約時に支払った。

2  火災(保険事故)の発生

原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び家財は、平成五年六月一四日、火災(以下「本件火災」という。)により焼失した。

3  損害の発生

原告は、本件火災による焼失により、本件建物について、少なくとも一三〇〇万円の損害を受け、本件建物内の家財について、二六七八万三九五〇円の損害を受けた。

4  よって、原告は、被告日動火災に対し、右1(一)及び(二)の各保険契約に基づき、保険金合計一三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日(平成六年一月一二日)の翌日から支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、被告住友海上に対し、右1(三)及び(四)の各保険契約に基づき、保険金合計一五〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日(平成六年二月一四日)の翌日から支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1及び2の各事実はいずれも認める。

2  請求原因3については否認する。

三  参加人株式会社タケダの請求原因

1  前記一1(二)ないし(四)、2、3と同旨

2(一)  原告は、平成六年四月一三日、参加人株式会社タケダ(以下「参加人タケダ」という。)のために、原告の被告日動火災に対する右一1(二)の火災保険金債権について、参加人タケダの原告に対する五〇〇万円の貸金債権(参加人タケダが原告に、平成五年一〇月二〇日、返済期日を平成七年五月三一日として貸し渡した九五〇万円の内金)を担保するために、質権を設定した。

(二)  原告は、平成六年四月一三日、参加人タケダのために、原告の被告住友海上に対する右一1(三)及び(四)の各火災保険金債権について、参加人タケダの原告に対する合計一五五〇万円の貸金債権(参加人タケダが原告に、①平成五年一〇月二〇日、返済期日を平成七年五月三一日として貸し渡した九五〇万円の内金四五〇万円、②平成六年四月五日、返済期日を平成七年五月三一日として貸し渡した九〇〇万円、③平成六年四月八日、返済期日を平成七年五月三一日として貸し渡した二〇〇万円)を担保するために、質権を各設定した。

3(一)  原告は、被告日動火災に対し、右2(一)の質権設定を同月一四日ころ到達の書面で通知した。

(二)  原告は、被告住友海上に対し、右2(二)の質権設定を同月一四日ころ到達の書面で通知した。

4  よって、参加人タケダは、参加人タケダと原告との間において、原告の被告日動火災に対する請求に係る長期総合保険(家財)契約に基づく保険金請求権五〇〇万円について参加人タケダが質権を有すること及び原告の被告住友海上に対する請求に係る一五〇〇万円の保険金請求権について参加人タケダが質権を有することの各確認を求めるとともに、被告日動火災に対しては五〇〇万円及びこれに対する原告の請求と同様の遅延損害金、被告住友海上に対しては一五〇〇万円及びこれに対する原告の請求と同様の遅延損害金の各支払いを求める。

四  参加人株式会社タケダの請求原因に対する被参加人らの認否

1  原告の認否

請求原因は全て認める。

2  被告らの認否

(一) 請求原因1については、前記二と同旨

(二) 請求原因2は知らない。

(三) 請求原因3は認める。

五  参加人紋別信用金庫の請求原因

1  前記一1(一)、2、3と同旨

2  原告は、平成七年三月一七日、参加人紋別信用金庫(以下「参加人信金」という。)のために、原告の被告日動火災に対する右一1(一)の火災保険金債権八〇〇万円の内七〇〇万円について、参加人信金の原告に対する保証債権(参加人信金が原告を連帯保証人として訴外丸藤運輸株式会社に、平成二年二月二日、返済期日を平成七年二月五日とし、利息年8.5パーセント、遅延損害金年18.25パーセントの各割合として貸し渡した二二〇〇万円の残元金一六九五万九八〇四円及びこれに対する平成二年一二月七日から支払済みまでの約定遅延損害金)を担保するために、質権を設定した。

3  原告は、被告日動火災に対し、右2(一)の質権設定を平成七年三月一一日ころ到達の書面で通知した。

4  よって、参加人信金は、参加人信金と原告との間において、原告の被告日動火災に対する請求に係る長期住宅火災保険契約に基づく保険金請求権八〇〇万円のうち七〇〇万円について参加人信金が質権を有することの確認を求めるとともに、被告日動火災に対し、七〇〇万円及びこれに対する原告の請求と同様の遅延損害金の支払いを求める。

六  参加人紋別信用金庫の請求原因に対する被参加人らの認否

1  原告の認否

(一) 請求原因1は認める。

(二) 請求原因2及び3は否認する。

2  被告らの認否

(一) 請求原因1については、前記二と同旨

(二) 請求原因2及び3はいずれも知らない。

七  抗弁

1  権利喪失(債権譲渡)

原告は、平成五年六月一四日、原告の被告日動火災に対する本件二件の保険金請求権を訴外旭川トヨタ自動車株式会社に全額譲渡し、同月二四日付け(同月二五日到達)の内容証明郵便で被告日動火災に通知した。

2  故意または重過失による免責   (一) 出火場所

本件火災の出火場所は、本件建物の一階の台所の食器収納棚前である。

(二) 出火原因

原告は、本件火災の当日の朝、出掛ける直前まで相当数のタバコを吸い、吸って間がない吸殻も灰皿に入っていた吸殼と一緒に紙類が入っていた黒いビニール袋に入れて台所の食器収納棚の前に置いたまま外出したことによって、消えていなかったタバコの吸殼から黒いビニール袋内の紙類に燃え移り、さらに、食器収納棚の戸板に燃え移って、本件火災が発生した。

(三) 損害発生についての故意・未必の故意ないし重過失

(1) 経済状況

原告の経済状況は、昭和五六年ころから悪化の一途を辿り、平成五年六月一一日ころには完全に破綻していた。原告は昭和五八年に丸藤運輸株式会社を設立して代表取締役となったが、丸藤運輸株式会社は昭和六二年には手形の不渡事故をおこし、平成二年一一月には倒産したものであるところ、原告は、丸藤運輸株式会社の債務(合計約七五〇〇万円)について個人保証していた。

(2) 罹災歴

平成三年四月一六日、丸藤運輸株式会社所有の事務所が放火の疑いによる火災に遭い、被告住友海上との間で締結していた火災保険により、一三七〇万円の保険金が支払われた。

(3) 付保険の経緯の異常性

原告は、被告日動火災との間において、本件建物について保険金八〇〇万円の、本件建物内の家財について五〇〇万円の各保険契約を締結していたにもかかわらず、本件火災のわずか三日前である平成五年六月一一日に、被告住友海上との間において、本件建物について保険金五〇〇万円の、本件建物内の家財について一〇〇〇万円の各保険契約を締結したものである。

(4) 故意ないし重過失

右の事情に照らせば、本件火災については、原告の故意(未必の故意を含む)ないし重過失に基づくことは明らかである。

(四) 損害発生についての重過失

仮に、本件火災が原告の故意によるとは言えないとしても、一日にタバコを四〇本ほど吸う原告においては、タバコの吸殼を十分に管理して火災が発生しないようにする注意義務が課せられているものであって、本件火災にあっては、吸殼を黒いビニール袋に入れる前に吸殼が完全に消えたことを確認するとか、吸殼を入れた黒いビニールをもって出るとかして、その発生を防止することを容易にできたにもかかわらず、これをしないで、紙類が入っていた黒いビニール袋にタバコの吸殻を入れて台所の食器収納棚の前に置いたまま漫然外出した原告の行為は、わずかな注意さえすればたやすく違法有害な結果が発生することを予見できたのに漫然とこれを怠ったものであるから重過失にあたることは明らかである。

(五) 前記一1(一)ないし(四)の各保険契約の約款には、いずれも保険契約者である原告の故意または重過失により生じた損害については、保険金を支払わない旨の規定が存在する。

八  抗弁に対する原告及び参加人の認否

1  抗弁1のうち、二九四万九〇〇〇円の限度で債権譲渡がなされたことは認め、その余は否認する。

2  抗弁2(一)は知らない。同(二)は否認する。同(三)(1)ないし(3)のうち、丸藤運輸所有の建物が火災に遭ったこと、そのために火災保険金が支給されたこと、原告が被告らと各火災保険契約を締結したことは認め、その余は否認する。同(三)(4)及び(四)の主張は争う。同(五)は認める。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  原告の請求原因1及び2の各事実(参加人らの各請求原因として重複する部分も同様)、抗弁1のうち二九四万九〇〇〇円の限度で債権譲渡がなされたこと、抗弁2(三)(1)ないし(3)の丸藤運輸所有の建物が火災に遭ったこと、そのために火災保険金が支給されたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  本件の主たる争点は、本件火災による損害の発生が原告の故意あるいは重過失に基づくものであるかの点(抗弁2関係)であるから、以下判断する。

1  本件火災の状況等

前記争いのない事実、証拠(甲一、甲二、乙四、乙六、乙七、乙二四、証人伊東孝之、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件火災の概要

本件火災は、平成五年六月一四日、午前一〇時三一分ころ出火し、本件建物の一階79.38平方メートル、二階48.6平方メートル、延約一二八平方メートルの内一階及び二階の一部約三一平方メートルを焼損した半焼火災である。

(二)  本件火災の焼燬状況

本件建物は、木造モルタル塗り亜鉛メッキ鋼板葺二階建であるところ、東側に玄関があり、その玄関から入ると吹抜けになっている。一階は、南側に洋室、北側に浴室、トイレ、突き当たりが居間、居間に接して西側に和室二部屋があり、台所は居間と対面式食器棚付テーブルで区切られている。二階は、中央に廊下があり、階段を上がった北側が原告の娘の部屋で他の部屋は使用していない。

(1) 外観の焼燬状況

本件建物の北側については、台所窓上部壁体の一部が煤け、換気口の金網は変色し、軒下は部分的に煤けている。南側、西側、東側については、火災の様相は見られない。

(2) 内部階段及び吹抜け付の焼燬状況

居間入口の額縁上枠及びその上部壁体(化粧ベニヤ)がほぼ全面にわたり浅い焼燬を示し、吹抜けになっている二階部分の壁体は階段寄りが幅約四五センチメートルにわたり天井まで焼失している。

(3) 内部二階の焼燬状況

原告の娘の部屋の内側中央から見た焼燬状況は、部屋入口両側壁体(化粧ベニヤ)ついては、手前部分が剥がされ、廊下壁体の裏側が焦げ、部分的に燃え抜け、残存している胴縁が部分的に原色を残し、入口左側の壁(裏側が吹抜け部分にあたる)から東側の壁にかけては、L字型に焼失し、柱、間柱、胴縁が深い焼燬を示し、床に接する部分が焼き切れている。二階の他の部屋については、火災の様相は見られない。

(4) 内部一階の焼燬状況

居間については、天井(化粧ベニヤ)は焼失し、野縁二階梁は、台所上部が深い焼燬を示し、台所から反対側に離れるに従い焦げに変わり、その周囲の壁体(化粧ベニヤ)も燃え下がりの状況で台所から離れるに原色部分の残存面積が大きくなっている。居間西側に接する和室二部屋については、いずれも天井及び壁体上部が煤けのみであるが、北側和室の方がその度合が強い。居間東側に接する洋室については、入口上部壁体(繊維壁)及び天井(ビニールクロス張)が表面焼燬している。居間と台所を区切るテーブルについては、その本体及び下部食器棚・収納棚は、台所側が浅い焼燬を示し、これに接して置いてある三脚の椅子は、台所入口に近い椅子は腰掛部が焼失している。台所については、ガステーブルの元栓は全て締めてあり、ガステーブル台下部日用品収納棚は、開戸の戸板が焼失し、木枠が一様に深い炭化を示し、内部の収納品が見える。ガステーブル上部は、壁体が焼失して間柱、ぬきのみ残存し、吊り戸棚の側板が焼失し、換気扇モーターが変色している。吊り戸棚は、換気扇付近から西側に離れるに従って焼けは徐々に浅くなり、メガネ石から出ている暖房用パイプ及び換気扇モーターの配線が露出している。天井(耐火ボード)は剥がされ、野縁、野縁受け及び天井回り縁は、換気扇付近が深い炭化を示しているが、他の部分は原色を残している。流し台に接して置かれている食器棚は、下部開戸の戸板中央部の流し台側が焼失している。ガステーブル台下部日用品収納棚付近には電気配線はない。本件火災前には、食器棚前に円形プラスチック製屑入れが二個、ガステーブル台下にゴミ類の入った黒色ビニール袋が存在したが、いずれも焼失しており、焼燬物取り除いた後の床面は、ゴミ袋の置いてあった部分のクッションフロアーが焼失している。

2  本件火災の出火箇所及び出火原因等について

(一)  本件火災の出火箇所及び出火状況については、前記証拠(乙四、証人伊東孝之)及び右1認定に係る本件火災の焼燬状況(特に、①ガステーブル台下部日用品収納棚開戸の焼燬が強いこと、②対面式食器棚付テーブルは台所側が焼燬していること、③壁体、天井はガステーブル上部が強い焼燬を示していること)からすれば、出火箇所は台所であり、ガステーブル台前の床から立ち上った火流が、食器棚、ガステーブル背後の壁体を媒介として天井に延び、天井裏から二階壁体内に延焼したものと認められる。

(二)(1)  本件火災の出火原因及び出火に至る経緯については、前記証拠(乙四、乙七、乙二四、証人伊東孝之、原告本人)及び右認定の事実を総合すれば、

① 原告は、本件火災当日、午前九時過ぎころに本件建物から外出したものであるが、その直前までタバコを吸っていた。

② 原告は、右外出に際し、紙類の入ったビニール製ゴミ袋にタバコの吸殼を捨て、そのゴミ袋を台所のガステーブル台下部の日用品収納棚前に置いていった、

③ 右ゴミ袋内のタバコの吸殼が火種となってその中の紙類に着火発炎した、

④ 右ゴミ袋の火の輻射熱により、ガステーブル台下部の日用品収納棚に火が燃え移った

ものであると認められる。

(2) この点、原告は、タバコの吸殼を灰皿に入れた後どのように始末したかは記憶にない旨主張し、本件の本人尋問の際には、「消防署の係官に、タバコの吸殻をゴミ袋に捨てたとは言っていない。」、「本件火災後に本件建物内に入ったとき、テーブルの灰皿に吸殼が残っているのを見た。」旨供述するが、原告は、消防署関係で二度、警察関係で一度、それぞれ事情聴取を受けているが、いずれの際にもその旨が調書等に記載されていないこと、火災の出火原因について原告自身の責任が問われかねない内容であるにもかかわらず、原告は各調書の内容に異議を述べていなかったこと、原告は、調書の内容が自己の認識と異なる記載になっていることについて、合理的な説明をしないこと、また、本件火災においては、出火箇所である台所のガステーブル台付近では、ガス漏れ、漏電など他の合理的な出火原因が考えられず、ゴミ袋が発炎する他の合理的な事情も認められないこと、などの事情に照らせば、原告の右主張等を採用することはできない。

3  原告の重過失について

重過失とは、少しの注意をすれば容易に有害な結果が発生する事を予見でき、したがって、大事に至ることをたやすく回避することができたのに、こうした注意すら怠るような故意に近い不注意をいうと解すべきである。これを本件火災についてみるに、原告は、紙類の入ったビニール製ゴミ袋に吸ったばかりのタバコの吸殼を捨て、そのまま台所に放置したものであるところ、紙類という容易に着火する可燃物の中に吸ったばかりのタバコの吸殻を捨てることは、喫煙者ならずとも誰でも、これにより紙類が燃え上がり、火災に結びつくことを容易に予見することができたものであり、かつ、このような事態を避けることは、タバコの吸殼の始末に際してほんのちょっとの注意さえ払えば容易に回避することができたものであるから、原告には重過失があったものと言うべきである。

したがって、原告主張の本件火災にかかる各損害については、すべて原告の重過失により生じた損害であると認められるから、被告らは、保険契約者である原告に対して各保険金支払義務を負わない。

三  結語

以上の事実によれば、被告らは本件火災による損害発生時において原告に対して各保険金支払義務を負わないものであり、参加人らについても被告ら及び原告に対してなんら具体的な権利・請求権を取得していないことに帰することとなるから、その余の事実について判断するまでもなく、原告及び参加人らの被告らに対する各請求並びに参加人らの原告に対する各請求は、いずれも理由がなく失当であるからこれらを棄却することとし、訴訟費用及び各参加による訴訟費用の負担について民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官菱田泰信)

別紙物件目録〈省略〉

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